くじけない愛







やっぱり少しは動きやすいようだった。

蚊帳の中で眠っているアザーの、ほんのちょっとだけ
大人っぽくなってきた顔をしみじみと眺める。

「天馬の森」は眠りの時間に入って、空気が沈み、風にさえ輪郭が朧になってしまう頼りない存在になってしまったペイシス・トーラも自らを保ち易いようだった。

何時の間にか、アザー・リグ・オディンの守護者の座に納まってしまったペイシスは、こうなってから初めて見るようになったアザーの寝顔を見守りながら、夜を過ごすのが日課になっていた。

どうせ睡眠は必要としない体になっていたし、他にする事もない。

思えばマウニンのくせに、崖から転落するという情けない死に方をしたのだ。

少しだけ、もう死んでもいいかな・・・なんて気はあった。

でも、本当に死ぬなんて思わなかった、というのも正直な処。

気が付いたら死んでいた。

体が壊れて、取り返しが付かなくなっていた。

そんなとんでもない死に方だった割りには、今の状況はかなり良いと言えるかもしれない。

アザーが自分の死を悲しんでくれたから、ここにこうやって自分が居るのだ。

大した力も無いけど、なるべく長く、アザーを守ろうとペイシスは思っていた。

彼がどんな人生を歩むのか見当も付かないが・・・・。

そして、彼の人生が終わった時には、自分が手を引いてやろう、と。

そこまで考えて、ペイシスは鼻にしわを寄せた。

最も、あれやらこれやらが、くっついて来る可能性は大である。








「なんだってこう、野郎ばかりにモテるんだろうな・・・。」




異性との接触があまり無いのが普通・・・というのがこの国であるが、それにしてもアザーは回りの友人達に色々な思いを寄せられているようだった。

本人は全く無頓着なようだが・・・・。

ペイシスはアザーのそんな子供っぽい所も、好きだと思っていた。

我が儘で、怒りっぽくて一本気で。

でも本当は気持ちの優しい奴なのだと、周りにいる者全部が分かっていた。

強いくせに、とても素直な彼の心が、大好きだった。

それはもう、大なり小なり皆、同じように思っているに違いなかった。

幸い、今の時点でアザーにけしからん事を仕掛けようという不届き者はまだ現れていないが、油断のならない奴・・・と思っているのは、最近アザーに近付いて来た、年上の女みたいな顔をした奴だ。




あいつはいけない。





他の連中は遠巻きに近い感じなのに、あれはそんな事をする気はさらさら無いらしい。

真っ直ぐに歩み寄って来る。

今頃になって気が付いても仕方が無いのだが、アザーはそんな風に飛び込んで来るような相手に弱い。

そういう相手を拒絶する事は滅多に無いのだ。

思い起こせば、あのソウビ・イサスも同じようにアザーの心に入り込んで来て、あの場所に居座ったのだろう。

不思議な事に、あの女顔(リオという名だったか)については、
あまり物騒な感情は起こらない。

ソウビが現れた時は、あんなに取り乱したのに。

殺してやろうか、と、本気で思ったりしたのに・・・。

実の所、ペイシスは今でもソウビだけは我慢がならなかった。

何故なのか、自分でも分からない。

もしかしたら死んだ時点で、思考が固定されているのかもしれなかった。

あの時は強く、ソウビを憎んでいたから・・・・。

しかし、リオという奴が必要以上に接近して来るのも、不愉快だった。

いざとなれば、全力で邪魔に入るつもりだ。

ペイシスには一つ、望みがあった。

それはいずれこの世に生を受けるであろう、アザーの子供を見たい・・・という物だった。





その為には、野郎など近付けてなるものか・・・・!




ゴオッと心理描写の炎を背負って、<燃える背後霊>ペイシス・トーラは、
アザーを守り抜く事を改めて強く、誓い直したのであった。





アザーの未来は明るい?


か、どうかは、誰も知らない・・・・・。








<おわり>







<あとがき>

ペイの誓いも虚しく・・・。
子供、出来そうもありませんね〜。
リオに丸め込まれて、押し倒されるのも近そう?
心を許した相手にはとことん甘くなるみたいです。

両家の女性陣が応援してるし、
マウーニは同性の伴侶を持つ事も普通に
認められるお国柄なのでした。



(1996・9・24作 2004・6・9UP)




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